保温性に優れているため、セーターやマフラーなど冬に大活躍のカシミヤ。上品な光沢とやわらかな肌触りが特徴のカシミヤ製品は、デリケートな素材で高価ということもあり、「クリーニングに出すもの」と思っている人も多いでしょう。しかし、実はきちんとポイントを押さえれば、自宅でもカシミヤを洗濯できます。
今回は、カシミヤ特有のしっとりした風合いを保ちながら、クリーニングの費用を抑えられる、自宅での正しい洗濯方法をご紹介します。
カシミヤが洗濯に不向きな理由
高級素材のカシミヤは、なぜ洗濯に不向きなのでしょうか。洗濯の前に、まずはカシミヤについて、素材の特徴や基本的な知識を理解しておきましょう。
- カシミヤの特徴
カシミヤは、カシミヤヤギの毛から作られています。カシミヤヤギが生息しているのは、冬の気温がマイナス30℃にもなる地域です。そのため、寒さから身を守れるように、表面の毛の下にさらに細い産毛が生えており、この産毛がカシミヤの材料となります。羊毛などのウールに比べてとても細いため、やわらかい手触りが特徴で、織り上げても軽く、保温性と保湿性に優れています。
1頭のカシミヤヤギからは、わずかな量の産毛しか取ることができません。量が少ないため、カシミヤは高価な素材として扱われています。
- カシミヤが洗濯に不向きと言われるのはなぜか?
家庭での洗濯に向いていないと言われるのは、カシミヤがとてもデリケートな繊維だからです。カシミヤの毛は細くてやわらかい上に、撥水性が低いため水をはじくことが苦手です。水の影響を受けやすい素材のため、扱い方によっては水分を吸収してシミになってしまう場合もあります。
また、カシミヤには動物性タンパク質(油脂分)が含まれていることも、洗濯に不向きな理由のひとつです。洗濯をしてしまうと、洗剤によって動物性タンパク質が洗い流されてしまう恐れがあり、カシミヤの特徴であるしっとりとした風合いが損なわれてしまいます。
しかし、動物性タンパク質が洗い流されるという懸念点については、クリーニングでも同じです。水洗いをしなくても、クリーニングで使う洗剤によってはタンパク質が落ちて、パサついてしまうことがあります。
クリーニングに出すのであれば、カシミヤに対応したクリーニングができる店舗かどうかを確認し、カシミヤクリーニングに関して確かな実績のある店舗を選びましょう。
洗濯前の注意点
デリケートなカシミヤ製品は、ほかの衣類とは異なる注意点があります。失敗を防ぐためにも、自宅で洗濯をする前に次の4点をあらかじめ理解しておきましょう。
- 中性洗剤を使用する
カシミヤを洗濯する際は、「ホームクリーニング用」「おしゃれ着洗い用」などの表示がある中性洗剤を使いましょう。洗濯用洗剤は、汚れを落ちやすくするために弱アルカリ性が一般的です。しかし、弱アルカリ性洗剤は動物性タンパク質にダメージを与えてしまうため、カシミヤへの使用は避けましょう。
- ぬるま湯で洗う
カシミヤを洗濯するときの水温は、30℃以下のぬるま湯がベストです。水温が高いとカシミヤが縮みやすいため、洗剤が溶ける程度のぬるま湯で洗いましょう。
また、温度変化の刺激によっても、繊維が縮んだり傷んだりする危険性があります。しっかりと洗剤が溶けるなら冷水でも大丈夫ですが、ぬるま湯で洗った後に冷たい水ですすぐなど、急激な温度差にさらすのはNGです。
- 他のものと一緒に洗わない
カシミヤは他のものと一緒に洗わず、1枚ずつ洗うようにしましょう。他のものと一緒に洗うと、摩擦で傷んだり、色移りしたりすることがあります。水に浸ける時間を減らしてダメージを防ぐために、複数枚のカシミヤ製品を洗う場合も必ず1枚ずつ洗い、短時間で洗い終えるようにしましょう。
- 汚れやシミは早めに取る
洗濯をする前に、汚れやシミがないか全体をよくチェックしましょう。汚れやシミがある場合は、部分洗いで落としてから洗濯します。
部分洗いをする際は、汚れやシミがある箇所に中性洗剤の原液を少量なじませます。落ちにくい場合は、洗剤液を薄めてタオルにつけ、汚れをポンポンと優しくたたくようにして汚れを取りましょう。ただし、無理にこすったり、原液の洗剤につけ置きしたりするのはNGです。
汚れやシミは、普段からこまめにお手入れをして、繊維に染み込む前に取り除いておきましょう。
カシミヤを手洗いする方法
上記の注意点を意識しながら、カシミヤを洗ってみましょう。自宅での手洗いで品質を保つための正しい手洗いの方法をご紹介します。
- 洗い
ニットなどは、洗う前に裏返し、容器に浸せる大きさにたたみましょう。裏返すことで、洗濯の刺激による毛羽立ちを防ぐことができます。
ボウルやたらいなどの大きめの容器、もしくは洗面台に水を溜め、中性洗剤を入れてよく溶かします。洗剤液ができたらカシミヤをたたんだまま浸し、手のひらでゆっくり丁寧に押し洗いをします。このときに、もんだりこすったりするとカシミヤが傷んでしまうため、絶対に避けましょう。
- すすぎ
容器の水を入れ替えて、押し洗いをしながらすすぎます。洗うときと同様、もまないように注意しましょう。2~3回水を入れ替えて、カシミヤに洗剤が残らないように押し洗いでのすすぎを繰り返します。
- 脱水
しっかりと洗剤をすすいだら、軽く水分を押し出し、再度きれいにたたんで洗濯ネットに入れて、洗濯機で脱水します。時間は30秒、長くても1分程度で、水気をざっと飛ばせればOKです。ねじったり、手で潰したりして絞るのは、素材が傷むだけでなく、型崩れの原因になりため避けましょう。
- 乾かす
乾かすときは、平干しにして自然乾燥させます。ハンガーにかけて干すと水分の重みで伸びてしまうので、バスタオルを敷くか、平干し専用のネットの上に形を整えて広げます。
乾かす際に、乾燥機の使用は絶対に避けましょう。カシミヤは高温に弱いため、毛が縮んでしまいます。
- 仕上げ
乾いたあと、シワがついたり袖口がよれてしまったりしたときは、アイロンのスチーム機能を使って仕上げます。アイロンは押しつけるのではなく、軽くすべらせるようにしてかけるのがポイントです。スチームの適度な水分で、崩れた形を元通りに整えてくれます。
最後にブラシをかけて、毛並みを整えたら完了です。
洗濯機を使ったカシミヤの洗い方
カシミヤを洗うときは手洗いがおすすめですが、「手洗いしている時間がない」「ちょっと面倒」という人は、洗濯機でも洗うことができます。

- 洗濯機をセットする
カシミヤを裏返しにしてたたみ、必ず洗濯ネットに入れてから洗濯機の中に入れます。洗濯モードは標準コースではなく「手洗いコース」を選びましょう。洗濯機のメーカーによっては「ドライコース」「ソフトコース」「おうちクリーニング」などの名称になっている場合もあります。説明書をよく読み、洗い方のモードを選択してください。
洗濯機でも洗うことはできますが、たたきつけるようにして洗うドラム式の洗濯機は、カシミヤの洗濯には向いていません。自宅の洗濯機がドラム式の場合は、洗濯機を使わず手洗いしましょう。
- 脱水から仕上げ
脱水時間は、手洗いのときと同じで30秒~1分程度で十分です。手洗いコースの脱水時間が長い場合は、あらかじめすすぎまでの設定にしておくか途中で止めて、カシミヤが傷まないように注意しましょう。
脱水後、平干しで乾かし、仕上げるまでは手洗いと同じです。
大切なカシミヤは自分で洗濯して長く愛用しよう
高級なカシミヤだからこそ、自分の手で丁寧に手入れをしたいもの。自宅での洗濯でも、ポイントを押さえれば素材を傷めずに良い状態を保つことができます。
カシミヤは、どんなに大切に扱っていても、着用によって少しずつダメージはかかっています。しかし、普段から着用後にブラシをかけたり風を通したりとひと手間かけるだけで、カシミヤ独特の風合いを長く保てます。お気に入りのカシミヤを長く愛用するために、丁寧に手入れしながら大切に扱いましょう。
